発行者: 30.11.2020
一郎はもうあらんかぎりの力を出してそこら中いちめん ちらちらちらちら 白い火になって燃えるやうに思ひながら楢夫を肩にしてさっきめざした方へ走りました。. おとうさんはもう外へ出ていました。おっかさんが にこにこ して、 おいしい白い草の根や青いばらの実を持って来て言いました。 「さあ早くおかおを洗って、今日は少し運動をするんですよ。どれちょっとお見せ。 まあ本当に奇麗だね。・・・」.
そしてなめくぢはとかげの傷に口をあてました。・・・ 「も少しよく嘗めないとあとで大変ですよ。今度又来てももう直してあげませんよ。ハッハハ。」となめくぢは もがもが 返事をしながらやはりとかげを嘗めつゞけました。. ほしのひかりの、 ピッカリコ. 王様からのお迎ひです。将軍、馬を下りなさい。向ふの列で誰か云ふ。 将軍はまた手を ばたばた したが、やつぱりからだがはなれない。 ところが迎ひの大臣は、鮒よりひどい近眼だつた。わざと馬から下りないで、両手を振つて、 みんなに何か命令してると考へた。. そして虔十はまるでこらへ切れないやうに にこにこ 笑って兄さんに教へられたやうに今度は北の方の堺《さかひ》から杉苗の穴を掘りはじめました。 実にまっすぐに実に間隔正しくそれを掘ったのでした。虔十の兄さんがそこへ一本づつ苗を植ゑて行きました。.
嘉吉は子供のように箸をとりはじめた。ふと表の河岸で カーンカーン と岩を叩く音がした。二人は ぎょっ として聞き耳をたてた。.
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そして富沢はまた とろとろ した。. 嘉助はぶるぶるふるえました。「おうい。」霧の中から一郎のにいさんの声がしました。雷も ごろごろ 鳴っています。. 今は兎たちは、みんなみじかい茶色の着物です。 野原の草はきらきら光り、あちこちの樺の木は白い花をつけました。・・・ 子兎のホモイは、悦んで ぴんぴん 踊りながら申しました。「ふん、いいにおいだなあ。うまいぞ、うまいぞ、鈴蘭なんかまるで パリパリ だ」. と思うと俄かに ぱっ とあたりが黄金に変りました。霧が融けたのでした。・・・ (ああこんなけわしいひどいところを私は渡って来たのだな。けれども何というこの立派さだろう。 そしてはてな、あれは。)諒安は眼を疑いました。 そのいちめんの山谷の刻《きざ》みにいちめんまっ白にマグノリアの木の花が咲いているのでした。 ・・・ すぐ向うに一本の大きなほおの木がありました。その下に二人の子供が幹を間にして立っているのでした。 ・・・ その子供らは羅《うすもの》をつけ瓔珞《ようらく》をかざり日光に光り、 すべて断食のあけがたの夢のようでした。.
給仕がちょっとこっちを向いて、いかにも申し訳けないといふやうに眼をつぶって見せました。 私はそれですっかり気分がよくなったのです。そして、 どしどし 階段を踏んで、通りに下りました。.
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しかしミス・ティタニアの顔が彼の手と頭のあいだに割り込んでくるのだ。この世界をチャップマン・チップスであふれさせたとしても、あの娘に危害が及ぶようなことがあればなんの意味があるだろう? 「この顔か、一千のチップスを戦いにおもむかせたのは?」(註 クリストファー・マーロー「ファウスト博士」の一節「この顔か、一千艘の 船 シップス を戦いにおもむかせたのは」をもじって)そう彼はつぶやき、一瞬、オー・ヘンリーのかわりにオックスフォード版詞華集を持ってくればよかったと思った。.
ブドリはぼたんを押しました。見る見るさっきのけむりの網は、美しい桃いろや青や紫に、 パッパッ と目もさめるようにかがやきながら、ついたり消えたりしました。 ブドリはまるでうっとりとしてそれに見とれました。. 老人は、黙って礼を返しました。何か云いたいようでしたが黙って俄かに向うを向き、 今まで私の来た方の荒地に とぼとぼ 歩き出しました。私もまた、丁度その反対の方の、さびしい石原を合掌したまま進みました。.
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The Life and Opinions of John Buncle, Esq. キッコは・・・ ふと算術帳と理科帳と取りちがえて書いたのに気がつきました。 この木ペンにはゴムもついていたと思いながら尻の方のゴムで消そうとしましたら もう今度は鉛筆がまるで踊るように二、三べん動いて間もなく表紙はあとも残さずきれいになってしまいました。 さあ、キッコのよろこんだことこんないい鉛筆をもっていたらもう勉強も何もいらない。ひとりで どんどん できるんだ。.
カン蛙はなんとも言えないうらめしそうな顔をして、口を むにゃむにゃ やりました。実はこれは歯を食いしばるところなのですが、 歯がないのですからむにゃむにゃやるより仕方ないのです。.
その時みんなのうしろの方で、 フウフウ と言うひどい音が聞こえ、二つの目玉が火のように光って来ました。それは例の猫大将でした。. お父さんは火を見ながらじっと何か考へ、鍋は ことこと 鳴ってゐました。二人も座りました。 日はもうよほど高く三本の青い日光の棒もだいぶ急になりました。. 見るとそれはきれいな女の蜘蛛でした。「ここへおいで。」と手長の蜘蛛が云って糸を一本 すうっ とさげてやりました。 女の蜘蛛がすぐそれにつかまってのぼって来ました。そして二人は夫婦になりました。.
処方箋 もしもあなたの心が、燐を必要としているなら、ローガン・ピアソール・スミスの「トリヴィア」をおためしあれ。 もしもあなたの心が、丘の上と、桜草の谷から吹きつける、青く清浄な一陣の強い風を必要としているなら、リチャード・ジェフリーズの「わが心の物語」を。 もしも鉄分配合の強壮酒と、とことん頭のなかを引っかきまわされるような経験が必要なら、サミュエル・バトラーの「ノートブックス」あるいはチェスタートンの「木曜日の男」を。 「アイルランド的な奇想」、羽目をはずしたどんちゃん騒ぎが必要なら、ジェイムズ・スティーブンスの「半神半人」を。教えるのがもったいないような、思った以上にいい本です。 砂時計をひっくりかえすように、時には心を上下反対にして、砂粒を逆流させるのもいいもの。 英語をいつくしむ人なら、ラテン語の辞書はとてもおもしろいはず。 ロジャー・ミフリン.
おしまいにはとのさまがえるは、十一疋のあまがえるを、 もじゃもじゃ 堅めて、 ぺちゃん と投げつけました。あまがえるはすっかり恐れ入って、ふるえて、 すきとおる位青くなって、その辺に平伏いたしました。. むかしラユーといふ首都に、兄弟三人の医者がゐた。いちばん上のリンパーは、普通の人の医者だつた。 その弟のリンプーは、馬や羊の医者だつた。いちばん末のリンポーは、草だの木だのの医者だつた。 そして兄弟三人は、・・・青い瓦の病院を、三つならべて建ててゐて、てんでに白や朱の旗を、 風に ぱたぱた 云はせてゐた。.